福岡高等裁判所 昭和49年(ム)4号 判決 1976年4月26日
熊本市城山上代町五二五番地
(登記簿上の本店所在地)
同市春日町五一二番地
再審原告
合名会社カネヤマ商店
右代表者清算人
山下鯛蔵
熊本県上益城郡矢部町浜町二二八番地
再審原告
山下鯛蔵
再審被告
国
右代表者法務大臣
稲葉修
右指定代理人
布村重成
同
中村程寧
同
田中貢
同
清水正敏
同
田川修
同
村上久夫
主文
本件再審の訴をいずれも却下する。
再審費用は再審原告らの負担とする。
事実
第一、再審原告らは「原判決(福岡高等裁判所昭和四六年(ネ)第六二二号)および一審判決(熊本地方裁判所昭和四四年(ワ)第一九三号、第五四一号)を取り消す。再審被告は再審原告合名会社カネヤマ商店に対し金三六万三、六一〇円およびこれに対する昭和四四年三月九日から、再審原告山下鯛蔵に対し金一〇万四、八〇〇円およびこれに対する同年六月二五日からそれぞれ支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、本案訴訟、再審訴訟を通じて再審被告の負担とする。」との判決を求め、再審被告は主文と同旨の判決を求めた。
第二、再審原告らは再審理由を次のとおり述べた。
一、再審の基本たる裁判は次のとおりである。
1 一審熊本地方裁判所昭和四四年(ワ)第一九三号、第五四一号損害賠償請求事件、昭和四六年八月六日言渡、再審原告(本案原告)の請求棄却。
2 二審福岡高等裁判所昭和四六年(ネ)第六二二号事件、昭和四七年一〇月三〇日言渡、再審原告(本案控訴人)の控訴棄却。
3 上告審最高裁判所昭和四八年(オ)第三一号事件、昭和四九年五月三一日言渡、再審原告(本案上告人)の上告棄却。
二、原判決には次の事由がある。
1 民訴法四二〇条一項六号該当事由
(一) 右判決に証拠とされた法人税の異議申立決定書に理由として次のとおり記載している。「旭相互銀行田崎支店山下アサカ名義普通預金No.六〇、五九万一、〇五八円および住友銀行熊本支店山下泰裕名義普通預金No.三五〇八八、一二万三、五五七円は、報酬、給料、不動産収入と生活費支出との差額の蓄積であると申立てるも、架空借入金を返済したようにして預け入れたり、または架空経費の支出(小切手振出)により預け入れるなど、その信ぴよう性がなく、生活費支出の状況等によりみて剰余金よりなるものとは認められず、法人取引によるものと認める。」「未達小切手一七二万〇、〇〇〇円についても上記預金で操作され、決済したものは当該預金に預け入れるなど、すべて架装経理と認める。云々」。右記載はそれをなした御船税務署長福本正喜、同署員美濃田浩、同中村日義の虚偽の記載である。右の点につき再審原告は昭和五〇年四月一二日付で熊本地方検察庁に公文書虚偽記載罪で告訴したところ、同年六月三〇日同検察庁において時効完成を理由に不起訴処分がなされた。
(二) なお、前訴訟において提出された書証について同号該当事由を主張するものではない。
2 民訴法四二〇条一項七号該当事由
(一) 証人美濃田浩は昭和四五年二月二日の口頭弁論期日において次のとおり証言しているが、いずれも虚偽の陳述である。
124 一時流用したというのはだれの金をだれが流用したというんですか。
会社の金を六月二十五日に引き出して会社の当座預金から、そして個人の山下泰裕名義の住友銀行の普通預金に預け入れたと、そのことをさすわけです。
125 そういうことをだれが言うたんですか。
それは代表者です。
126 いつ頃のことですか。
これは四十一年十二月十四日調査の三日目です。
127 そういう書面があるんですか。
あると思います。
129 架空に支払つた経費があると云われたが、いくらありますか。
乙五号証、旭相互銀行田崎出張所の山下アサカ名義の普通預金、たとえば四十年の十月三十日三万六千百六十円、それから八千円、二万円、一万一千二百五十円、それから十二月二十日の三万四百八十円、それから乙四号証の四十年十二月十一日、それから十四日五万四千八百円と九万六千二百六十円、以上です。
(二) 証人中村日義は昭和四五年六月二二日の口頭弁論期日において次のとおり証言しているが、いずれも虚偽の陳述であり、また宣誓したうえ黙否したのは偽証に価する。
54 どうですか。今三十七年までおつしやつたんですが、三十八年とか九年の所得などはお調べにならなかつたんですか。
三十七年七月十七日事業年度まで調べたわけは、三十七年十月十五日初め大和銀行熊本支店の佐藤アサカ名義の普通預金九十万円が発生しておりましたので、三十七年七月まで調べております。
55 三十八年以降は調べていないんですか。
調べておりません。
48 この五十七号証の九十七万円、五十八号証の百二十七万八千円、これはどうして言わんですか。
三十八年とか三十九年のはどうして言わんとな。………(証人は黙して答えない)
同様に253751525357616271の質問に対しても黙否して答えなかつた。
(三) 証人西山徹は右と同じ口頭弁論期日において次のとおり証言したが、右は虚偽の陳述である。
162 そうすると原処分がこういう事実関係で未達小切手は架空債務だと、それから簿外預金は会社の売上脱漏だという設定をしたことは、あながちやむを得ないということですか。
そういうふうにやつぱり思います。やはりそういうふうに我々だつて短時間のうちにすれば、そういう答を出したんじやないかという気がします。
(四) 以上三名の偽証については昭和四九年七月一八日付で熊本南警察署に告訴したところ、昭和五〇年六月三〇日熊本地方検察庁において嫌疑不十分の理由で不起訴処分がなされた。
3 民訴法四二〇条一項九号該当事由
原判決は、次に例示するように判断の誤りがあり、これは要するに再審原告の主張を採用しないで再審被告の主張を採用したがためであつて、これは結局判断を遺脱したことになる。
(1) 判決書(原判決の引用する第一審判決書・以下同じ)一四枚目裏二行目以下に「昭和四三年一〇月一八日本件課税処分が取り消されたこと。」とあるが、右一〇月一八日に裁決があつた事実はない。
(2) 判決書一六枚目表四行目以下に「右普通預金中には原告会社の帳簿に記載されている営業経費、商品仕入代金等の支払金額と目されるものが混入し、その取引の回数が多く、金額も多額にのぼつていることに照らし、原告会社代表者が弁明するような同代表者個人の生活剰余金の蓄積とは認められなかつた。」とあるが、右のような事実はない。
(3) 判決書一六枚目表一〇行目「本件未達小切手」から同一七枚目表五行目「足りる証拠はない。」までの記載があるが、右判断は誤つている。
(4) 判決書一九枚目表一三行目以下に「No.六〇、No.三五〇八八の普通預金の発生源如何にかゝるものであり、この点について原告会社の主張を裏付けるものは原告会社代表者の供述のみしかなく、その供述もにわかに信を措き難いところではあるが、さればといつて、左各普通預金が原告会社の簿外預金と断定することはいささか無理であろうということから、疑問を残しながらもやむなく本件課税処分を取り消すに至つたこと。以上の事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。」とあるが、右認定は誤つている。
(5) 判決書二〇枚目裏二行目「昭和三七年八月」から同末行「故意過失があるとは認め難い。」までの判断も誤つている。
(6) 判決書二一枚目末行以下に「一旦青色申告承認の取消がなされた以上、同法第一三〇条第二項による理由附記は必要ないものといわねばならない。」とあるが、右判断もまちがつている。
(7) 原審は前記二2項記載の証人らが偽証していることを知りつつ本案原告敗訴の判決をしたのは判断の遺脱である。
第三、再審被告は次のとおり述べた。
一、再審原告らの主張一項の事実は認める。
二、再審原告らの主張二項は、いずれも次のとおりなんら再審事由とはなりえないものである。
1 民訴法四二〇条一項六号の主張について。右主張は再審事由たり得ない。
2 民訴法四二〇条一項七号の主張について。その主張の偽証について刑事裁判において有罪の裁判が確定していないから、右主張は再審事由に当らない。
3 民訴法四二〇条一項九号の主張について。判断遺脱とは当事者が適法に提出した攻撃防禦方法で当然判決に影響あるものに対し、判決理由中で判断を示さない場合であるところ、右の主張はたんに原判決の事実誤認等をいうにすぎず、なんら判断遺脱の主張ではないから、主張じたい失当である。
第四、再審原告らは立証として新甲第一ないし第七号証、第八号証の一、二、第九ないし第一一号証を提出し、再審被告は新甲第四、五号証、第九ないし第一一号証の原本の存在成立ともに不知、その余の新甲号各証の成立を認めると述べた。
理由
一、民訴法四二〇条一項六号該当事由の主張について。
再審原告は、法人税の異議申立決定書(本案訴訟甲第二号証の二)の理由の記載内容が虚偽であり、虚偽公文書作成罪にあたると主張する。しかし、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同様。)において、右文書はまつたく事実認定の資料に供せられていないことは判決じたいによつて明らかであり、それ以上の点について判断するまでもなく、右主張はなんら適法な再審事由にあたらないというほかない。
二、民訴法四二〇条一項七号該当事由の主張について。
仮りに再審原告主張の証言が偽証であつたとしても、右偽証罪につき有罪の判決が確定するか、または証拠の欠以外の理由により有罪の確定判決をうることができない場合でなければ、これを理由に再審の訴を提起することができないものであるところ(民訴法四二〇条二項)、これらの点につきなんらの主張も立証もない。したがつて右主張は適法な再審事由とはならない。
三、民訴法四二〇条一項九号該当事由の主張について。
右にいう判断の遺脱とは、当事者が適法に訴訟上提出した攻撃防禦方法たる事項で、当然に判決の結論に影響あるものに対し、判決理由中で判断を示さなかつたことをいうものであるところ、その主張の事由が判断の遺脱に当らないことは明らかであるから適法な再審事由とはならない。
四、以上のとおり再審原告の主張はいずれも適法な再審事由となりえないものであるから、本件再審の訴は不適法としてこれを却下することとし、再審費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中池利男 裁判官 鍬守正一 裁判官 綱脇和久)